巨大なサケだから、不思議な力もある。北海道に住んだアイヌの人々は、大きくなるマスノスケを「カムイ・チェブ・パセクル(神魚の王)」と呼び、畏れうやまった。なにしろ、ときどき人間に変身できるのだから、すごい魔力である。ただ、魔力もすご過ぎると逆にマイナスになる。たとえば、アイヌの伝承によると、マスノスケは人間の女性に変身するのが好きという。美しい女の姿になって湿地にあがり、大好物のフキをとって食べる。でも、あまりにも美しい姿になるので、人間の若者に見られたりすると、一目惚れされることになる。そして、恋がからむと、人間のほうも一気に強くなるから不思議なものだ。
昔、支笏に住む若者が狩をしていたとき、川辺で美しい女をみつけた。その辺に生えているフキを食べている。そっと近づいたら、女は危険を察知して川に飛び込んだ。大きなマスノスケに変身し、川下へ逃げていったのだ。でも、若者は美女を逃がすものかと追いかけ、先回りして川にはいり、下帯をはずし脚を開いて川のなかにかがみこんだ。そこへマスノスケが逃げてきた。ところが、目の前に、男の裸のまたがあからさまに立ちふさがったものだから、たまらない。大サケはおもわず凍りついた。何しろ女性に変身したやつですからね。そのまま陸に上がって逃げようとしたら、女の姿に戻ってしまった。「わたしは人間の男の下帯をはずした姿を見てしまった。もう魔力が消えて魚に戻れません。どうかあなたの飯炊きにでもしてくださいまし」と、哀願するはめになった。もちろん、若者は喜んでオーケー。この女を女房にし、たくさんの子供にめぐまれたとさ・・・・ おもしろいのは、この話に「オマケ」があることだ。マスノスケの子供が栄える支笏の村には、よくクマがあらわれるのだそうな。サケを大好物にしているクマは、まちがえて村人を食べようとする、と言い伝えられた。
北海道の人々は、この大地も巨大サケに支えられていると考えた。天地創造のとき、国造りの神がうっかりして、大きなアメマスの背中に大地を造ってしまった。大アメマスはそのあと大地を支え続けなければならない運命を負わされた、今も一生懸命にささえているのだが、たまに疲れて動いてしまう。これが地震の原因なのだという。それで、地震が起きると昔の人たちは炉のすみに小刀を刺し、「腰骨おさえたぞ!」と、アメマスに喝をいれた。内地では、地震をおこすのはナマズの役割だが、さすが北海道はサケの仕事になっている。
サケはつくづく、おもしろい魚である。 (おわり) |
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